保育者人生の分岐点③
【向いている? 向いていない?】
2023.05.02
人それぞれに訪れる、保育者としての人生の分岐点。
「もう辞めようかな」という迷いに、当事者、同僚、園長、養成校講師……と、いろいろな立場を経験してきた大澤洋美先生が答えます。
向いている、いないの分岐点
「私、保育者に向いていない!」と思う最初のタイミングは、やはり保育実習のときでしょう。子どものことが好きで、それなりに「保育」の世界が自分に向いていると思って学んできたのに、いざ園に行くと、「うまくできなかった」の連続。心が折れ、「この先もできるようにはならないかも……向いていない」という気持ちになるのでしょう。
このときに大事なのは、周りのかかわりです。まずは、「みんな、初めからできているわけではない」ということを伝えます。就職してから、一つ一つできることを増やしていけばいいのですから。
と同時に、その学生のいいところをしっかり言葉にして伝えたいと思います。「子どものことをよく見ている」「○○ちゃんの心をつかんでいた」など、“向いていない”と思っているときには気づけない、キラリと光る部分に目が向くように……! 何か一つ「これならできそう」と思えるものがあると、そこから一つ一つできることが増えていく未来を思い描けるようにもなります。
私自身、新人のときに先輩に言われた「あなた、保育はいちばん下手だけど、これまで出会った後輩の中でいちばん性格がいいよ!」という、けなしているのか褒めているのか分からない言葉がうれしくて、その後のへっぽこな保育者人生の大きな支えになりました。
そんなふうに、誰しも最初はできないんだ、自分の「得意」から始めればいいんだ、と頭を切り替えられると、「向いている・向いていない」第一分岐点は通過……となります。次の「向いていない」分岐点は3年後……! それについてはまた次回。
お話:大澤洋美
東京成徳短期大学教授
約30年にわたり東京都で保育に従事。幼稚園・こども園の園長を経て現職。『保護者の質問 こたえ方BOOK』『3・4・5歳児の心Q&A』(Gakken)ほか著書多数。
イラスト:北野有