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保育者人生の分岐点⑤
【向き合う? 向き合わない?】

2023.07.03

人それぞれに訪れる、保育者としての人生の分岐点。
そのときどきの迷いに、当事者、同僚、園長、養成校講師……と、いろいろな立場を経験してきた大澤洋美先生が答えます。

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向き合う、向き合わないの分岐点

 私は、「苦手なことは置いておいて、得意なことを伸ばしましょう」という保育者育成方針の職場で育ててもらいました。ポンコツ保育者だった私が保育者を続けてこられたのは、たくさんの「できないこと」ではなく、少しの「できること」に目を向けてくれた先輩方のおかげです。その環境の中で、反省だらけの毎日でも、「今日、あの子が私のことを好きって言ってくれた!」といった小さな出来事を自信に換えていけたように思います。
 自分の経験からも、「得意を伸ばす」方針に賛成、私自身もそのように後進を育てたいと考えています。しかし、「苦手なことは置いておいて……」には、実は、前提があります。それは、「目の前の子どもにとって、本当に大事なことは漏らさない」ということ。目を背けている苦手なことの中に、「子どもの育ちを保障する」ために必要なことがないかどうか考えよ!ということです。そのためには、子どもをよく見てありのままを理解しようとする姿勢も大切です。
 「子どもの育ち」を軸にして考えると、「苦手だからやらない」では済まず、「苦手だけれどもやらねばならぬ」ことがどうしても出てきます。私がこのことに気づかされたのは、仕事を始めて10年過ぎてから。自分の「苦手」に向き合う覚悟ができた頃に、先輩に教わりました。
 最初から「子どもの育ちを保障するために、苦手なことにも向き合って」と言われても、若手時代の私には難しかったでしょう。その人の成長に応じて道を示す……というのがやはり大事で、改めて、先輩方の巧みな誘導に感服しています。

お話:大澤洋美

東京成徳短期大学教授

約30年にわたり東京都で保育に従事。幼稚園・こども園の園長を経て現職。『保護者の質問 こたえ方BOOK』『3・4・5歳児の心Q&A』(Gakken)ほか著書多数。

イラスト:北野有

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