保育者人生の分岐点⑦
【育児に専念する? しない?】
2023.09.01
人それぞれに訪れる、保育者としての人生の分岐点。
「もう辞めようかな」という迷いに、当事者、同僚、園長、養成校講師……と、いろいろな立場を経験してきた大澤洋美先生が答えます。
育児に専念する、しないの分岐点
今回は、子育て中の保育者が通る分岐点について。
例えば、我が子の参観に行けなかったり、早く迎えにいけなかったり……。子どもが好きでこの仕事をしているのに、自分の子どもに寂しい思いをさせていいのか?という迷いは、瞬間的なものであれ、生じるものです。
その葛藤から、一度辞めて子育てを存分にして、落ち着いてからまた保育に戻るという選択もよいと思います。納得できず不安を抱えたままでは、保育をしてもおもしろくないし、ストレスが溜まってしまうでしょう。個々の価値観や家族の背景、いろいろな条件の中で、「我が子に専念する私でありたい」というのは、キャリアを放り投げるということではなく、保育者人生の選択肢です。
私自身は葛藤しながら働き、その時期を抜けて、職員を見守る立場になってからは、葛藤しながら働く人を支える職場づくりを意識してきました。
例えば、ありがちな“我が子と園の行事かぶり”も、本人からの「困っている」発信と、それに共感する周囲の空気があれば、当事者が休める態勢をとったり、または「○時まではいてほしいけど、その後は早退したら?」と送り出したりすることも検討できます。そのような職場であれば、悩みながらも続けていきやすいものです。葛藤中の本人には、「家族のことを思うその気持ちを、家族に伝えること」「膨らむ葛藤を溜め込まず、誰かに伝えること」のどちらも大事だよと話をします。
どちらの道を選ぶにせよ、何かを犠牲にするのではなく、自分の納得がいく道を考えることが大事。そのための分岐点だと思います。
お話:大澤洋美
東京成徳短期大学教授
約30年にわたり東京都で保育に従事。幼稚園・こども園の園長を経て現職。『保護者の質問 こたえ方BOOK』『3・4・5歳児の心Q&A』(Gakken)ほか著書多数。
イラスト:北野有