保育者人生の分岐点⑪
【気づく? 気づかない?】
2024.01.05
人それぞれに訪れる、保育者としての人生の分岐点。
そのときどきの迷いに、当事者、同僚、園長、養成校講師……と、いろいろな立場を経験してきた大澤洋美先生が答えます。
気づく、気づかないの分岐点
少し保育が上手になってきたなと思っていた頃の話です。子どもたちを2チームに分けてゲームをして、なかなかうまく進めることができました。最後に、「じゃあ、勝ったチームに、負けたチームはおめでとう!で拍手!」と言って締めようとしたところ、1人の子どもが「負けたんだから、おめでとうなんて言えないよ」と言ったのです。
そのときに、「一人一人の気持ちに寄り添う保育者でありたいと思っていたのに、負けた子の気持ちに全然寄り添っていなかった自分」に気づきました。「負けても勝った人たちをたたえる」という行為を「いいこと」とし、マナーや道徳性を教えようとしていた自分のおごりがありました。
同様に、「貸してーいいよ」「ごめんねーいいよ」で解決した気になっていたのに、子どもの発信から、そうではなかったと気づかされることもありました。
保護者の言葉から気づくこともあります。「自分で作ったキーホルダーを、先生に気づいてほしくてずっと持ち歩いているんです。声をかけてやってもらえませんか?」と申し訳なさそうに言われたときの「ああ、なんて鈍感な私!」という後悔……!
こうした、自身を省察させられる経験は苦しいものです。ですが、振り返ってみると、自分が成長するための分岐点になっていたことに気づきます。保育者はやはり、子どもや保護者に育ててもらうのだと思います。
お話:大澤洋美
東京成徳短期大学教授
約30年にわたり東京都で保育に従事。幼稚園・こども園の園長を経て現職。『保護者の質問 こたえ方BOOK』『3・4・5歳児の心Q&A』(Gakken)ほか著書多数。
イラスト:北野有