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保育者人生の分岐点⑫ (最終回)
【葛藤は続くよどこまでも】

2024.02.02

人それぞれに訪れる、保育者としての人生の分岐点。
そのときどきの迷いに、当事者、同僚、園長、養成校講師……と、いろいろな立場を経験してきた大澤洋美先生が答えます。

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葛藤は続くよどこまでも

 前回に引き続き、子どもがもたらす分岐点についての話です。子どもとのかかわりの中で、自分の保育について気づきをもたらされたとき、もう取り返せない状況であることも多々あります。
 私が3年目の頃、「この子がいなければ静かになるのに」と思っている自分に気づき、ショックを受けたことがあります。そんなふうに思ってはいけないと頭では分かり、そんな感情を自分が抱くはずがないと思ってきたのに、その子が休みの日にほっとしている自分がいたのです。
 その子とは、最後まで心が通じ合わずに、卒園の日を迎えました。式の後にアルバムを見返して、私は愕然としました。入園したての4月の頃の写真を見ると、その子は私の隣で、私の手を握って、満面の笑顔で写っていたのです。それを見て、「ああ、こんなにも、私と一緒にいたい子だったのだ!」とショックを受け、その思いをつなげられなかった自分の未熟さを猛烈に反省しました。
 あれから何十年経ったいまでも、このときのショックは色褪せません。その後、小学校で元気にやっている様子を聞いて、私のかかわりがその子の人生の全てを決めるわけではない、その子には返せなかったけれどこれからかかわる子にはこの経験を返せると思ったりはしましたが……。
 保育の仕事は、自分を顧みざるを得ないことが多く、葛藤をともなう仕事です。いまの私なら、その渦中にある保育者に「みんなそうだよ」と声をかけます。葛藤するのは気づくことができる能力があるから。ステップアップしていける保育者である証拠です。そんな自分を認めて、前に進んでいってほしいと思います。

お話:大澤洋美

東京成徳短期大学教授

約30年にわたり東京都で保育に従事。幼稚園・こども園の園長を経て現職。『保護者の質問 こたえ方BOOK』『3・4・5歳児の心Q&A』(Gakken)ほか著書多数。

イラスト:北野有

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